夏から秋にかけて、私たちの生活空間で最も遭遇する機会が多く、そして最も注意すべき蜂、それがキイロスズメバチです。日本の蜂の中で、刺傷被害件数が最多とされるこの蜂は、都市環境に巧みに適応し、時に私たちのすぐそばに巨大な要塞、すなわち巣を築き上げます。キイロスズメバチの巣を理解することは、その脅威から身を守るための第一歩です。キイロスズメバチの巣作りは、春、冬眠から目覚めた一匹の女王蜂によって始められます。女王蜂は、木の皮などをかじって作った材料で、まず「とっくりを逆さにしたような形」の、小さな初期巣を作ります。この段階では、巣の大きさは数センチ程度で、働き蜂もいないため、比較的危険度は低いです。しかし、最初の働き蜂が羽化すると、状況は一変します。女王蜂は産卵に専念し、巣の拡張や餌集めは、すべて働き蜂の仕事となります。巣は驚異的なスピードで巨大化し、夏から秋にかけての最盛期には、特徴的な美しい「マーブル模様(貝殻模様)」の外皮に覆われた、直径80センチメートルにも達する巨大な球状の巣へと姿を変えます。内部は、六角形の巣盤が何層にも重なった、複雑な構造をしており、その中には、1000匹を超える働き蜂と、次世代の女王蜂たちが潜んでいるのです。このキイロスズメバチの巣の最も恐ろしい点は、その営巣場所にあります。彼らは、民家の軒下や屋根裏、壁の隙間、ベランダ、あるいは生け垣の中といった、まさに私たちの生活空間のど真ん中に、平然とこの巨大な要塞を築き上げます。そのため、知らず知らずのうちに巣に近づいてしまい、彼らの逆鱗に触れてしまう事故が、後を絶たないのです。